開店1年でミシュラン獲得。「HATSU」中華丼の秘密

 

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大阪・北新地。夜の帳が下りるとキラキラと輝く街の一角に「HATSU」はある。開店1年でミシュラン一つ星を獲得、他にはないイノベーティブな料理と注目を集めている店だ。

 

●“不思議”がたくさん詰まった空間

ここには“不思議”がたくさん詰まっている。シェフの枡本航平さんが「なぜこの場所だったのか自分でもわからないんですよ」と笑って言うほど、シンプルで落ち着いた佇まいは歓楽街であるこの立地に不似合いであるし、和とも洋とも言えない外観は店のことを知らないと容易には入れないだろうと察しがつく。そのハードルを乗り越えて、いざ中へ入ってみるとオープンキッチンには自家製の発酵食品や数十種類のスパイス、ハーブが所狭しと並んでいる。シェフの家に招かれているような居心地のよいカウンターがあるかと思えば、相反するように間接照明によるシックで大人の雰囲気が漂う個室がある。ハイクラスかと思いきや、居酒屋風の「冷やしあめ」や「あま酒」の暖簾を飾ったりと、何やら不思議な空間なのである。

 

●経歴が異色な枡本シェフ

そもそも枡本さんの経歴が異色なのだ。将来は絵を描く仕事に就きたいと思っていたはずが、アルバイトで入った地元、広島県宮島の日本料理店で、身近にある食材がこんなにも美味なる“料理”という形になることに魅了され料理人の道へ進むことを決意。就職した福岡のホテルレストランで洋食部門に配属されるとヨーロッパの料理に興味が湧き、海外に行く手段を模索した。するとデンマークの公邸料理人の職の話が舞い込み、迷うことなく旅立った。本来は日本や各国の要人たちに日本料理や日本の家庭料理でおもてなしをするための料理人なのだが、時には日本アニメ普及のために“日本のカレー”をアニメ好きの学生に紹介したり、地方で寿司のデモンストレーションを開催したりといった、普通なら経験できないことにもチャレンジして研鑽を積んだ。雇用してくれた大使の異動で公邸料理人の職を辞した後は4つ星ホテルの「Copenhagen Admiral Hotel Restaurant Salt」で伝統的なデンマーク料理と新北欧料理を学び、約8年間のデンマークでの修業の末、帰国。JR西日本の豪華寝台列車「瑞風」の料理長として超有名シェフのレシピを再現するという難しい役回りでさらに腕を磨き、満を持して「HATSU」をオープンしたのである。

  

●ひと皿ごとに感じる“初めての味”

店で供されるのは「おまかせコース」のみ。メニュー名からはどんな料理なのかまったくイメージできないので、完成するまでワクワクが止まらない。そうして目の前に置かれた料理は食材こそわかっても斬新なアイデアが詰まっていて、アミューズからデザートまでひと皿ごと感じる“初めての味に驚かされるのである。

その中で欠かせない料理が2つある。ひとつは「HATSUスナック デンマークの香り」だ。デンマークの伝統料理「スモーブロー」と呼ばれるライ麦パンに肉や魚、野菜などの具材をのせたオープンサンドに枡本さんのアイデアをプラスし「HATSU」の定番料理として存在させている。「Noma(デンマークの発酵ガストロノミーの名店)」の出現によってデンマーク料理=発酵というイメージが定着してしまったが、発酵はあくまで調理法のひとつにしかすぎず、国民食と言えるのは「スモーブロー」なのだと枡本さんは言う。

「私の料理人生にとってかけがえのないデンマーク料理。だから食文化も正しく伝えていきたい」と、クラシックなレシピを基本としている。いただいたのはイワシの酢漬けと厚切りの発酵バターをライ麦パンにのせたものと、キャラメリゼしたライ麦パンにバターで固めた鹿のテリーヌをのせたものの2種類。どちらもバターの香りが印象に残る絶妙な組み合わせに心が震えた。

 

もうひとつはスペシャリテの「HATSUサラダ 幸せな香り」である。メニューには食材の名前と主役である「森のウナギ」の説明が書かれている。サラダというので生野菜に「森のウナギ」を散らしてあるものだと思っていたら、これも想像を絶する料理が登場したのだ。大きなお皿にコリアンダーと貝のソースを敷き、中心には「森のウナギ」、その周りを「半熟にした鶏楽園卵」「鯖」「堀川ごぼう」「姫大根」「発酵きのこ」「いちごの糠漬け」「人参のピューレ」など11種類の食材で囲んでいる。驚くべきは食材ごとに味付けを変えていること。それぞれに特徴があり、そのままだったりソースをつけたりと如何様にでも楽しめる。食材は仕入れによって変わる故、食材同士やソースとの相性を考えながら味わいを作るのは毎回骨が折れるに違いない。「HATSU」の2年間の結晶がこの皿に描かれ、これからも昇華していくこの料理に枡本さんの技とセンスを感じずにはいられないのだ。

 

デンマークで開眼した技法と味の新境地

料理の柱となるのはデンマークで開眼した燻製、酢漬け、塩漬け、発酵などの技法と味の新境地、そして帰国後に改めて知った日本料理の奥深さ。それらを含み、運命に導かれ様々なジャンルを経験した枡本さんにしか作れない、旬の食材を自然の造形美のまま自家製発酵食品やスパイス、昆布や鮪節などのだしを駆使したどこかで口にしたようでいて“初めての味”が、次々と口福の世界へと誘うのである。

 

今まで食べたことがない中華丼

 

その世界観をそのままに家庭で枡本さんの味が楽しめるのが「冷凍良食」の匠シリーズ、「中華丼」だ。こちらも見た目はオーソドックスだが、枡本さんが作るだけあって今まで食べたことがない中華丼に仕上がっている。おもしろいものを作ろう!とアイデアを出し合っていて何となく思いついた中華丼ではあったが、作ったことがほとんどなかった枡本さんの“初めての味アンテナ”が動いた。

この中華丼、他と違うのは何と言っても具材と調味料の多さである。パッケージを手にすると、ほぼ具材じゃないか?と思うくらいゴロゴロと入っている。原材料を見ると使用している調味料もかなりの種類だ。これだけたくさんの味が混じると、個性的な味になるのではないかと食べてみると、これが不思議とひとつにまとまっているのだ。

「だしですね。だしはまとめる力があるので料理すべてにだしを使っています」と、枡本さん。現在、店で提供する料理には昆布と鮪節を使用しているそうだが、この中華丼には昆布と鰹節の和だし、さらに鶏ガラで作ったブイヨンも合わせ、既成の調味料や塩分に頼ることなく味に深みを出している。

 

健康、革新、環境に配慮した食材

次に具材となる食材選びだ。文献やネットの情報から基本の中華丼を学び、「みなさんが持っている中華丼のイメージを崩さずに店のコンセプトである健康、革新、環境に配慮した食材の3つを取り入れて作りました」と話す。
環境に優しい食材、例えば卵焼きに使用しているのは鶏を放し飼いにしてストレスフリーで育てた「鶏楽園」の卵だ。鶏が食べているもので卵の色も味も違うそうだ。中華丼のイメージからするとうずらの茹で卵を使うところだが冷凍には不向きとのことで、この卵に発酵バターとチーズ、ほんの少し小麦粉を入れて卵焼きにした。他にも手に入りにくい国産の生キクラゲや高栄養価のモロヘイヤなど健康を考慮した食材に絞っている。

さて、ここからが枡本さんの腕の見せ所だ。発酵食品やスパイスで食材に味を足していく。椎茸とキャベツで作った発酵野菜調味料をベースに醤油、アサリだしなどで作った合わせ調味料が中華丼を未知の味に変えるのだ。ひと口頬張ると次々と広がってくる何層もの豊かな味わいに、思わず口に出てしまう「こんなの食べたことがない」という言葉。
枡本さんのワンダーランドはとどまるところを知らない。その世界観を知るには、ぜひこの中華丼をご賞味いただきたい。

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HATSU 中華丼を含むラインナップ

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